11.10.2025

一億円のさようなら

 一億円のさようなら ( 2018 白石一文 ) 読了


あらすじ

夫・鉄平は偶然に妻・夏代が伯母の遺産30数億円を婚前から持っていた事を知る。20年以上苦楽を連れ添った妻の秘密に加え、鉄平だけが家族の蚊帳の外に置かれ、何も知らされていぬ事を知った鉄平は強い疎外感を感じてしまうのでした。

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自分以外の家族全員が「自分(夫であり父)にだけ秘密裏に好き勝手」していることを知ってしまった時、家族への義務は消え、妻への信頼も消えてしまった中年男性の「妻の秘密を足掛かりにした再生」物語です


妻の最後の提案に「自分以外の何人も我が意で変える事は出来ない」という不毛を感じたのは私だけ?



[ blog plus ]

著作の白石一文さんについて
お父さんも直木賞作家の白石一郎さんで、双子の弟さんも小説家として活動されているという文学一家というのですから、凄いDNAだなぁとしか形容出来ないですね。

[ memo ]

代表作
・この胸に深々と突き刺さる矢を抜け (2009)
・ほかならぬ人へ(2010)

additional notes ]

物語の主要な舞台は福岡と金沢

特に金沢について綿密な風景描写がされているのだけれども、あいにくと金沢は未到の地なので今一つピンと来ない...

それでも雪の風景の描写には日本海側の北国イメージとは異質な性質であることが分かるし、何よりも食の豊富さと質の高さは伝わって余りあるほど伝わり、頭の中が寿司になり過ぎて困ってしまう。

作中、特に引き合いに出たような音楽や映画、本などはなかったように思う

[ wrap-up ]

お金とは選択肢です。豊富な選択肢とは経済的背景がなければ提案も選択もできません。

主人公の鉄平が失業したタイミングで、妻はかつて不倫相手であった男に夫への説明とは矛盾する「支出」をしていることが、会社における事故で重体となっていた部下の転職話の中で察してしまうシーンの絶望感を際立たせたのは、妻の隠し財産について夫婦で話し合った時の一人親で鉄平を育てた母への最後の孝行が経済的事情で出来なかった悔恨と繋がります。

まぁこれは絶望しますよね、(絶望)しない男性はいないと思う。

手切金のような一億円で鉄平は事業を成功させ、元金までお金を戻して、金沢まで押し掛けてきた妻へ通帳を差し出します。このシーンで妻は「もう一度やり直したい」と「ある提案」を差し出して鉄平へ伝えます。このシーン、本当に残酷というか、女の怖さが強烈です。

鉄平は何を選ぶのだろう?


10.26.2025

潮風キッチン

潮風キッチン ( 2021 喜多嶋隆 ) 読了

あらすじ

ある日母親が男と蒸発してしまい独りぼっちになった海果に追い打ちをかけるように住居兼店舗の店まで抵当流れの危機に直面する。途方に暮れる海果であったが愛という少女との出逢いや、慎という若手俳優との出逢いから少しずつ人生は好転の兆しを見せてゆくのでした。

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家族から捨てられたり、疎まれたり、必要とされないといった負の感情を抱えた若者たちが出会い、絆を結び、希望を見出すという物語です。

読み進めていると「自分も海辺の街にいる」ような不思議な感じを覚えました。

爽やかさのある物語ではないかもしれませんが、優しさは沢山ありました。




( blog plus )

著者:喜多嶋隆さんについて

初めてかな...? 喜多嶋隆さんの本を読むのは。

wikiによるとベテランの作家さんだし、映像化された著作も多いとのこと。

文字から情景が浮かぶ作家さんは好きなので、少し興味を持ったので機会があれば本作は続編もあるようなので読みたいと思う。


[ memo ]

「潮風」シリーズ(角川文庫)

    • 潮風キッチン(2021)
    • 潮風メニュー(2022)
    • 潮風テーブル(2023)
    • 潮風マルシェ (2024)
    • 潮風サラダ (2025)

「ポニー・テール」シリーズ (角川文庫)
これは1980年代のヒットシリーズなので古本で状態の良いものは見つけられないだろうから電子を選ぶしかなさそう ( todo 一応古本も探してみる )


[ additional notes ]

・丸々と太った茶トラの雄ノラ猫の名前は「ジョーンズ」
 ジャズ好きの漁師徳さんにより命名だから由来は「ノラ・ジョーンズ」

・登場した楽曲
The Temptations「My Girl」
Ben E. King「Stand by Me」
Carole King 「You've got a Friend」
Elton John「Goodbye Yellow Brick Road」ほか

自分の趣味と合うからという単純な理由だけど、趣味がいいし、シーンに適した選曲だと思った。特に「 You've got a Friend 」はこの物語の象徴的な曲だと思う。

♪ When you're down and troubled and you need some loving care and nothing.
    Nothing is going right close your eyes and think of Me. ♪

愛という少女の境遇を海果が改めて感じた瞬間、その小さな背中に背負っている苦しさや寂しさに寄り添う海果の気持ちを「もう君は友達なんだよ」と代弁していた。


[ wrap-up ]

最初にも書いたけれど、読感がとても気持ちいい。
海沿いの街の海と人、優しさや寂しさも全部擬似体験できるような気がする